うちのガラクタ

古びたモノが好きです。日常の捕って付けたようなモノ・コトの紹介です。

302 魚籠づくし




先のKEIANでの対談「道具は使ってなんぼ」 という教訓より、情けないことに我が家の押入で肥やしとなっているカゴがあるのを思い出しました。
それが、このカゴ ビク(魚籠)です。


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 ● ビク    竹製     口経175~180、230×180×高さ220ミリ。

以前、運転免許更新の際に、偶然通りかかった福祉作業所前でのバザーを覗くと、片隅に転がっていたのがこのビクでした。
値を問うと「100円で」ということで、そのまま連れてしまい、免許更新中も片手にビクを持ってといったぐあいで、講習中にはヘンに目立ったビクでした。
家に戻ってみましたが、さてどうしたものか、花器に(いやいやそんな見立てぶった気取りはイケません)、かといってこれを腰に当てドンジョ掬いの安来節を踊るというわけにもまいりません。
「もったいない!」根性が芽生えたまでは良かったものの、その後すっかりと押入で永眠していたわけです。
まったくもって、かたじけない。
材質はマダケでしょうか、かなりかちっとした編み具合です。
どこの地域の細工なのか、そして用途が本来魚用なのかもはっきりしません。


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 ● ビクの部分

縁は桟を当て籐で巻く。首くびれ、首には竹タガ、筏底。


先のブログ
**ブログ№297 釣り文化資料館 
http://utinogarakuta.blog.fc2.com/blog-entry-297.html
**ブログ№300 「残したい技、ひき継ぎたい心」
http://utinogarakuta.blog.fc2.com/blog-entry-300.html

では、数あるカゴ類のなかでも、やはり魚入れに使うビク(魚籠)が面白いと思いました
KEIANの廣島一夫展でもDMを飾っていたのが「シタミ」というビクでした。
惚れ惚れとするような、工芸の域に達するような緻密な作りのシタミでしたが。
そのときの対談にもありましたが、これがどんなに美しくても「しょせん道具なんじゃ」という理由で、芸術品作品に登ることはありません。
「釣り文化資料館」では、名人が仕上げた緻密で凝ったビクもありました、釣りの趣味性が高じた素晴らしい逸品でした。
ただ、一般に使われているいわゆる民具としてのビクも、数をならべて観てみると、用途を一番の目的として生まれた道具ながらも、どれもがとても美しいかたちをしていて驚かされます。

うちのビクの出実も、どこの地域のものなのかは、まるで判然としませんが、数を見れば多少はその素性が知れるかもしれません。
そんなわけで、魚入れのビクには生簀カゴなどもありますが、今回は主に腰ビクを中心として観ていくことにしましょう。


*** 尚、下記 <01~27>のビクは、武蔵野美術大学・民俗資料室 収蔵資料より。 カタカナの名称は地方名、地域は旧地名のままの記載としました。



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 ● ビク その1

01; カワカゴ  新潟県佐渡郡畑野町
02; サラビク  新潟県佐渡郡真野町
03; カコベ   秋田県仙北郡六郷町上鑓田
04; アユフゴ  福島県双葉郡双葉町新山広町  / 鮎釣用
05; サカナビク 長野県上水内郡戸隠村中社
06; サカナビク 長野県松本市大手

一般に腰ビクとして連想させるかたちは、首の部分が細くくびれたこのようなビクではないでしょうか。
このくびれの部分に紐さえ回せば、特別に紐通しのための工夫をしなくてもよくい、腰カゴとして実には理に適ったかたちです。
下方に重心が保て、腰に下げても安定感があります。
同時にこのくびれのかたちが、中に入れた魚が容易に跳ねて飛び出させない役目を兼ねています。
ネマガリタケやスズタケなどで、いずれも細ヒゴのゴザ目で側面を細かく編み上げています。
ゴザ目はいわゆる笊(ざる)にみるザル編みで、水の切れ具合がとてもよいので、魚のビクに使うのにはもってこいの編み方です。
その凸凹したバランスも、なかに入れる魚の違いなのか、縦長や扁平といろいろです。
鍔状に大きく開いた口を持つ<03>などは、獲った魚を容易に入れられるような工夫から生まれたかたちでしょうか。
魚を素手で掴むと、ともかくぬるぬると滑りやすいものです。
今回の帰省で久しぶりに川釣りをしたときに、魚を振らしビクへ放り込む際に、幾度も手が滑りとり逃がしてしまいました。
そんな件もあって、このような鍔広のかたちのちょっとした工夫が、改めて便利そうで新鮮にみえました。

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 ● ビク その2

07; クビリハケゴ   栃木県黒磯市橋本町
08; サカナビク    長野県飯田市松尾
09; シングリ     京都府相楽郡加茂町
10; サカナトリブクロ 長野県茅野市
11; コシビク     埼玉県入間郡日高町
12; ビク       鳥取県米子市

こちらは”その1”よりは、かたちがさらに凝ったビクです。
合わせ蓋が付くものや。<10,11>
紐通し用の環<08>やチ(輪)<11>が付くもの。
<09>は紐先に竹筒の小片が付き、根付けのようなやり方で腰に止める式のものです。
腰の曲線に合わせて、しっかりフィットするようなかたちのものもあります。<11,12>
こういった曲面や平面を組み合わせたかたちに編み上げるには力加減も微妙で、とても難しいのではないかとおもいます。
安来節の踊りで使われるのが<12>のビクです。


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 ● ビク その3

13; ツリカゴ  岡山県津山市
14; ビク    徳島県名西郡神山町    / ハイ(雑魚)用
15; クマテボ  熊本県八代市日奈久温泉  / 釣用餌入
16; コシテボ  熊本県八代市日奈久温泉
17; コシテボ  大分県大分市金池町
18; 三段ビク  大分県大分市金池町

こちらはさらに緻密に編まれたビクです。
いずれもマダケの細ヒゴのゴザ目編みで、置いた時にも座りがよくとてもかっちりしたかたちです。
要所に力竹を用いて、さらに堅牢さを増しています。
ビクの合わせ蓋が、餌入れとしての用途を兼ねるものも多いです。
<15>は、ちょっと生簀っぽいながらも釣用餌入れで、高さ185ミリの大きさです。


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 ● ビク その4

19; 魚籠   鹿児島県大島郡徳之島町亀徳
20; 魚籠   鹿児島県大島郡徳之島町
21; ピーク  沖縄県沖縄市糸満
22; テル   鹿児島県大島郡知名町  / 魚・海苔入


鹿児島県の島嶼部や沖縄では、バンブー(地下茎で繁茂せず株立ちするタケ)系のホウライチクなどが自生し、それを素材にするためか、どことなく編みの雰囲気が、日本の他の地域のものと違っています。
タケの質が柔らかいのでしょうか、身(芯の部分)は使われず表面の皮タケ(皮の部分)が使われています。
口や底部にタガ輪を増して結わえていたり。<20,22>
肩に付く紐通しのチ(輪)の編みも独特で、このチのかたちは、この地方のカサギ(頭帯紐を額に当てて運ぶ)運搬するテル(背負籠)などにも共通しています。<19,20,21>
どこか甕などのやきものに付く耳を連想させる、この地方のビクのチですが。
沖縄で豚の脂を保存するのに使われた耳壺(ミンスブ)は、口の部分よりかなり下がった位置に紐通し用の大きな耳がついたやきもので、上部のバランスは、<19>のビクととてもよく似ています。(あるいはやきもの自体が、カゴのかたちを模したものなのかもしれません)


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 ● ビク その5

23; カタキリカゴ  鹿児島県加世田市     / 投網漁用
24; カタキリ    鹿児島県日置郡吹上町   / 投網漁用
25; シタミ     宮崎県西臼杵郡日之影町
26; コシテボ    大分県大分市
27; ハケゴ     新潟県新発田市

扁平で肩が大きく突きでたビク<23,24>は、投網を打つ際にも、腰にうまく密着してあばれません。
肩部は編み目を大きくして、空気をうまく取り込めるようにしているといいます。
より顕著なかたちのカタキリ型のビクを、かってネパールの投網漁で使われていたのをみたことがあります。
このカタキリ型は投網漁での身体の動きに併せて、自然とバランスをとるために生まれた工夫なのかもしれません。
廣島一夫作のシタミ<25>は、そんなカタキリ型を踏襲しながらも、首部分のくびれにタガを巻き側面にヒゴを2本回したりして<26,27に共通>、より強度を増すための工夫が施されています。


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 ● 台湾のビク「魚簍」     『 二十世紀 台灣住民生活竹器 』 李 贊壽 著 2000 より

日本の「魚籠」に相当する台湾の「魚簍」。
竹冠+串+女 = 「簍」(ル、ロウ)とはどういった意味の漢字なのでしょうか。

この本に載っていたビクにも、カタキリ型のビク<A,D,E>がみられます。
<D>はビクとしては大型で幅が500ミリもあり、細紐で背に吊って腰で縛るタイプです。
<C>のビクは網代編みで、日本のビクにはまるでみられない変わったかたちをしています。
このビクとまったく同じ外見で、摘み茶用の腰ビクがあり、その名前は「茶葉簍」とあります。
推するに「簍」とは「腰籠」のように腰に固定する小さなカゴを指す語なのでしょうか?
茶葉簍と<C>との違いは、どうやら魚用の<C>には口部分にカエシ(逆口らしきものが見えている)が付いている点のようです。
それにしても、このような網代でビクを作るのはいったい何故なのか、一向に謎です。
<A>は魚・蝦用のビクで、こちらの口の部分にも小さな獲物が跳ねて逃げてしまわないようにカエシが付いています。
肩に周わされた力竹に紐を結んでいます。幅は450ミリあり<D>と同じように、背に吊り身体に固定する方法をとるのでしょうか。
<B>のビクも変わったかたちです。サイズは小さめで180×160×110ミリです。
口にはカエシが付き、紐通しの作りも凝っています。
日本のもので敢えて似ているとすれば<20>の徳之島のビクでしょうか、ただしこちらは高さ265ミリとサイズも一回り大型です。

さて、少しばかりビクを観てきましたが、うちのビクは「ビク その1」グループに類する平凡なタイプながら、まったくそっくり同じものがあったというわけでもありません。
ただ首のくびれ部分は掛け紐を結ぶため、どうしても力がかかり弱る箇所で、その補強も兼ねてタガ巻きしているビクがあるのが解りました。
久しぶりに押入から出して、いま少しばかり外の空気に晒したところです。


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 ● さてこれからどう使ったものか、今後の課題が残されました。



それぞれに魅力的なかたちをしたビクでした!! (~o~)   



  1. 2016/10/23(日) 15:57:09|
  2. 民具
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