うちのガラクタ

古びたモノが好きです。日常の捕って付けたようなモノ・コトの紹介です。

280 竹の字











となりまちの図書館の本棚、朱色の背表紙で目についたのが『国字の辞典』飛田良文 監修、菅原義三 編 東京堂出版 1990年

辞典というには、厚さもわずか1センチ足らず、
帯文の「日本人のつくった和製漢字1551字を網羅! 初めて成る待望の国字の集大成!」。
二つもついてる ”!!” が呼び水となり借りてみました。


ついでながら家にある、古びた和本 『増続大廣會玉篇』 (こちらは国字は載っていない、はず)と比較あそびをしてみることにしました。










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 ● 選んでみたのが「竹部」



国字といえば”凧”などの文字、竹かんむりだと確か”笹”があったはず。

『国字の辞典』には竹部で28字登録されていました。

『増続大廣會玉篇』には竹部で、なんと849文字もある。



   『国字の辞典』のはしがきに、その造字法の分類として。



 《1》 漢字を合字したもの
 ① 意味を組み合わせたもの(会意の字)
 ② 音を組み合わせたもの(「麿」 麻+呂など)

 《2》 漢字を省画したもの、くずしたもの
 ③ 省画字(略字)
 ④ 片仮名・平仮名

 《3》 漢字の省画したもの、くずしたものを合字したもの
 ⑤ 省画字の合字
 ⑥ 仮名の合字

とあります。



当用漢字すらおぼつかない自分としては、”竹”は付くものの、字づらを見ただけでは、ちょっと想像すらできない文字がはてしなく並んでいます。
その複雑な造字の世界に、唯々感心させられるばかりです。


それでも国字の竹部のなかには、音としては聞いたことばが少しあります。
いずれも民具に類するものながら。
国字より数例引き出して、みてみることにしましょう。











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 ● おなじみの”笹”【ささ】、そしてとなりには”竹+皿”の【そうけ】の文字。



この国字辞書、常用漢字など比較的なじみのある漢字はゴチック体で記されています。
”笹”もゴチック体表記で、解説として「笹を篠(しの)」ともいうとあります。


竹と笹、一般的に大きなものが竹で、細く小さなものが笹のニュアンスがありますが。
植物分類上では、成長とともに稈の竹皮が落ちるものがタケ、成長してもそのまま竹皮が残るものをササとします。
そのため”メダケ”、”オカメザサ”などの竹笹の名称と、植物分類によるタケ、ササがくいちがっているものもみられます。





そして、【そうけ】です。


ザルやカゴの地方名でよく聞くことばとしては、これと同じくソウケ、ソーケ、ショウキ、ジョウキなどがあります。


そもそも本来はどのような意味で、どのような漢字があてられたものなのでしょうか!? 
素焼の皿を、瓦笥(かわらけ)といいますが、笥(け)には”うつわ”の意味があります。
ザルなどの編組の素材は、網目に隙間があるため液体などを素通ししてしまう。
そんな連想でいえば「素笥」とかそんな漢字が当てはまりましょうか?



『国字の辞典』のソウケは”竹+皿”の文字、解説には富山県八尾のソウケヤマの地名のソウケで。
この地方の竹で編んだ半円形の物入れ をいうとあります。
造字のほうも、皿を深皿にみれば、伏せたザルとおなじかたちで山のような形状でしょうし、民具にも富山県のこの地方の米揚げザルにはソウケと呼ばれたものがあったはずです。




また『和漢三才圖會』の庖厨具にみる米洗い飯カゴには【いかき】があります。
音読だと”ハンロウ”、ロウは”竹+羅”の文字が用いられています。
同じく籠(かご)のロウの音に通じています。

イカキの上に図示された若干小さな大きさの”竹+差”の文字のカゴは、味噌濾しザルのようです。











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 ● 富山県氷見市七尾の米揚げザル 「ソーケ」



写真のザルはまさしくソウケの「ソーケ」。
『増続大廣會玉篇』の竹部には笊(ざる)<イカキ>があり。
”竹+奥”で<コメアゲイカイキ>など、ほかにも米や飯に関連したカゴの漢字がみられます。









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 ● 「 簗 【やな】 」



『国字の辞典』には岩手県のヤナブクロの地名として、このヤナの文字が地形から来たものとし、付近には「簗場」と称する川魚を捕獲する場所もあったと記しています。


”簗”は、川をせきとめて魚を竹簀(たけす)に受けるようにした漁法です。
写真(下)の簗漁は、かってネパールでみたものです。
川の一部に堰(せき)をつくり、魚を誘き寄せている様子が解るでしょうか。


『増続大廣會玉篇』には、魚を捕る漁具として筌(うけ)<ウエ>の記載があり。
写真(上)の筌[ウナギドウ 福島県双葉郡双葉町]のように簀をまるめたり、あるいは竹ひごを編んで作ったりした、先すぼり状の筒形の漁具で、獲物が一端なかに入ると出られなくなるように、 逆口<返し>をつけたりと、対象とする魚の習性に併せたさまざまな工夫がみられます。


魚を誘き寄せ方(流れによったり、餌を仕込んだり)や、入口のつくり、取り出す方法など、対象魚や地域により筌のかたちが異なり、おもしろい道具です。


また筌は、 ウケ、ウエ、ドウ、ド、モジ、モジリなど、漁法や地域による呼称もいろいろです。










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 ● 【うつぼ】



『国字の辞典』には、”ウツボ”として”竹+丸”の笂と、 ”竹+賦”の文字の二例がありました。


笂には、
「うなぎ」を捕るために竹で編んだ筒(どう)が、戦国時代に矢をいれる筒(つつ)として利用された靱(うつぼ)に似ているところから、筒のことを「うつぼ」と呼ぶようになるとあります。



そして、 ”竹+賦”の文字のウツボは”靱”で武具のほうです。


『和漢三才圖會』の兵器・征伐具のウツボは「靫」の字。


『広辞林』をみると「 靫《 空穂 」として、俗に「靱」と混用とあり。

矢を入れて腰・背につける用具。中空の太い筒で、矢が雨などにぬれるのを防ぐため、上下に毛皮をかける。 とあります。


たしかによくみると『和漢三才圖會』の画にも、毛皮らしきものがかかっています。


「靫」、馴染みの薄い武具ものながら、端午の節句飾りに並ぶ「弓破魔」飾り にみることができます。


ウツという音”空”で、 空蝉(うつせみ)と同じく、中身が空っぽの状態を指します。
食虫植物のウツボカズラも、この靫とともに中空の壺形の殖器からの名称でしょうか。
空穂(うつぼ)と当てれば、その状態より形状もふまえどこかしっくりきます。


写真の筌[ ウナギテボ 熊本県八代市日奈久温泉 ]は、鰻捕り用のため細長いかたちをしていますが、そのまま矢筒としても使えそうなかたちですね。


また筌の呼称をみていくと、ウツボの文字がある「ウツボドウ」 (福島県西会津)という幾分小型の編組の筌があり、こちらは泥鰌(どじょう)用のものでした。









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 ● 武具の 【えびら】



『和漢三才圖會』の兵器・征伐具の矢容れには、ほかにも「箙」(えびら)が載っていました。
こちらも時代劇などの映像でどこかみたことのあるものです。
矢を入れて背に負う器とあります。


同じ音の用具では、たしか養蚕用具の蚕カゴの呼称もエビラでした。










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 ● お蚕さんの 【えびら】



『国字の辞典』にもありました”竹+蠶”でエビラです。


「蚕簿(えびら)」と同じ。蚕のすだれ。まぶし。


『和漢三才圖會』の農具類のエビラは「蠶簿」で、円形のカゴの画です。


写真(東京農工大学科学博物館蔵)は 角形のエビラです。
養蚕業も近代化が推し進められていけば、丸形よりも角形のエビラのほうが、蚕棚の空間に、より効率的に隙間なく設置することができます。


また給桑中に頻繁に取り替える蚕カゴに敷く筵(むしろ)や蚕網などの織物も、わざわざ円にせずとも、そのまま編んだかたち(角形)で済みます。


そして上蔟(蚕が繭を作る)用の蔟(まぶし)も、従来は自然の粗朶(そだ、細かな枝)など用いていたものから、より簡易に効率的に営繭できるように、稲藁を機械で折ったり、ボール紙で仕上げたりと、さまざまなタイプのものが登場してきます。


お蚕さんのエビラにも『増続大廣會玉篇』には、さらにいろいろな漢字がみられます。











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 ● 【ささら】の国字



『国字の辞典』にあったのが、 「簓」と”竹+玩”の文字の二つ。


なじみのあるのが簓の文字のササラ。
まるで茶筅のように細かな裂き竹を束ねた束子で。

中華鍋など洗う場で、いまでもこのような束子をみかけます。


画は『通常物図解便覧』(明治9年)の小学教本で、写真と同じく裂き竹の束子が簓として載っています。


束子といえば、シュロやヤシ繊維でできた「亀の子束子」のイメージが強いですが、この頃はまだ登場していなかったのですね。


そしてこの二つのササラに共通するのが芸能の音具として用いられるササラです。
字形より簓のほうは割り竹製で、もう一方は木製の板を綴り合わせたものとあります。
いずれも、すりあわせたときの、さらさらする音から派生したことばのようです。










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 ● 「竹富島のササラ楽器」     沖縄県八重山郡竹富町 / 喜寶院蒐集館蔵
   上より、 ジンザイ(銭麾)、ササラジンビキ(銭引)、ジンボウ(銭棒)。





いずれも楽器本体には、タンバリンにつくカネのようなかんじで、 銭(ジン)が組み込まれています。
芸能で用いる楽器で、打ち鳴らしたときにたつ銭の音に、福徳があるのだとか。


簓に該当するのが、この写真(上)ではあまりはっきり見えませんが、穂先が割れているジンザイです。
また、写真(下)のジンボウのように二本の竹稈を互いに打ち鳴らすようなものは、沖縄だけではなく、日本の各地の芸能の音具のなかでみかけるものでもあります。


なかでも一風かわっているものが、写真(中)のササラジンビキです。


銭が付いた二枚の板をパッタンパッタンと打ち鳴らし、さらにこれを鋸状のついた棒でギコギコと擦り合わせるのです。
いわば”クラッパー+ギロ”的な音具です。


日本の音具のなかでも、こういったものは他に類例がないのではないかと思いますが。
なぜかヴェトナムには”Sinh tien ”という、これと同じような楽器があるようで。

ヴェトナムの年画の「貴人楽奏図」のなかに、琴や琵琶などとともに、どうやらそれらしき楽器を手にしている女性の姿をみたことがあります。
”tien”はやはり銭の音化でしょうか?


琉球地方は、泡盛や三線(サンシン)などを例にとっても、中国大陸をはじめ東南アジア方面からの文化の流入が多くみられます。


ササラジンビキの存在も、その経緯は定かではないですが、想像するにこの地に在すまでの物語がありそうで興味深いです。











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 ● コキリコ節とササラ



写真(下)は富山県五箇山地方の伝統芸能、 コキリコ節で用いるササラです。


『国字の辞典』にある、 ”竹+玩”の文字に該当するササラで、木板を綴り合わせたものです。


曲状に頭上に持ち上げ、手首のスナップを効かせ、締め合わせてジャッシャッと小気味よく鳴らします。
形式的には先に述べた割り竹の簓(ささら)と区別して、 ”板ササラ”というものでしょうか。
板片は、非常に多く(仏教の除夜の鐘が煩悩を解く108の数にあわせて)108枚ついています。


写真(上)は、その製作の様子です。
白木の檜製で、板片を一枚一枚タコ紐でもって、ゆるみが出ないように固く結んで編んでいきます。


ほかにもこの地域には竹割りした簓の”棒ササラ”があるようです。
棒ササラは、螺子状に凸凹に木を刳った擦り棒がつき、これで本体を擦り合わせて鳴らすようですが、使用例は実際に目にしていません。


板状のササラは、たしか「ビンザサラ」というのではと記憶していましたが。


『広辞林』のビンザサラでは「 柏板 《 編木 」とあり。

図示されたものが、 「笏(しゃく)」を十数枚束ねたようなかたちをしています。

 昔、舞楽に用いた楽器。長さ10センチ幅2センチほどの数十枚の板を集め、その一端をつづりあわせ、これを振って板と打ち合って鳴るようにしたもの。ささらぎ。はくはん。



解説にあるように、雅楽の演奏会でそのような類のものが、楽琵琶などと一緒に単調に打ち鳴らされて用いられていたのを、みたことがあるような気もしますが、いまとなっては定かでありません。



五箇山では、コキリコ節のほかにも民俗芸能をいくつかみました。
突然の土砂降りの雨で、会場も急遽野外から屋内に変更となり。
公民館の舞台でみる公演は、場が変わっただけで、そのもの自体がしらけてしまい、慰安会風の見せ物にうつり、どこかつくられた感が否められなかったものの。


それでも「麦や節」などの民謡では、実際の農具である風呂鍬の刃先が「鍬金(くわがね)」として打楽器として用いられていたり、三味線をそのまま小さくして弓奏する「胡弓(こきゅう)」 (和楽器の弓奏楽器は珍しい)が独特な音色を奏でていたりと。
自分としては、はじめて触れた民謡の世界と使われている音具に魅せられた一時でもありました。


音具好きの指南役、K君は、コキリコ節やササラ楽器に関する資料を持参しており。
適宜、わかり易く解説してくれましたので、受け身的ながらも迷うことなく「なるほど」と理解できた貴重な体験でした。


自分としては富山県の玩具の棚に並んでいたササラしか知らず。
その背景を知るとまた次なる世界が拡がっていき、K君の視点や考察の仕方にも幾分触れた点でも、面白い旅でありました。


役場で求めたコキリコ節のテキストには「筑子舞」とありました。
『増続大廣會玉篇』をみると”コキリコ”の読みの漢字があったり、 「筑」も楽器名だったりします。


「コキリコのおタケは七寸五分じゃ、長いは・・・・・・・・・・・・・・まどのさんさもデデレコデン♪」

中学校の音楽の時間に日本の民謡として繰り返し唱わされ、いまでも頭に残るコキリコ節のメロディー。


その後K君とは、ササラ探訪第二弾として、浅草神社の神事芸能も観にいきました。
こちらは五箇山のササラと異なり、長い短冊型の板片がばらばらと数十枚垂れ下がったものを鳴らしていました。
社殿での神事ということもあり、にぎにぎしさが押さえられ幾分厳粛な雰囲気であったような。


ところ変われば、おなじ種類の音具であっても、奏法などはじめ用いられかたも随分違うようです。


古い絵巻図をみていると、ときに遊行の民でしょうか、角付けとしてササラのような音具を持っている姿を発見することがあります。


上のササラを持つ絵図は、捨てられた古器物の妖怪変化を描いた『付喪神絵詞』 (江戸時代後期、京都市立芸術大学芸術資料館蔵)。
田楽踊りをする妖怪の場面では、笛や太鼓の楽器にまじりササラ持ち が確認できます。
被り物や衣装など、五箇山のコキリコ節と、そっくりおなじような描写となっています。




現代の生活にあってはすっかり失われてしまったであろうササラの音に、むかしの人はどのような感覚でもって聴きいっていたのか、想いは尽きません。







竹部の国字を中心に、自分の見知っていることばを選び勝手に記してみましたが、「竹の字あそび」言葉足りずながらも結構楽しゅうございました!  (~o~)   










  1. 2016/07/16(土) 16:25:54|
  2. 雑 閑
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